17種類を育てるさつまいもの伝道師!源次郎ポテト 渋谷農園 渋谷代表
実は葉たばこの一大産地だった行方
「この辺りはもともと葉たばこの産地でした。昔からさつまいも栽培もやっていましたが、メインではなく、10年くらい前からさつまいも栽培に切り替わり、今はすべてさつまいも農家に変わりました」と話すのは、この地で代々農業を営む渋谷農園の渋谷泰正さん。この集落には100軒くらいの農家があったそうで、そのうちの60軒から70軒は野菜ではなく葉たばこを生産していたのだという。
売れるものじゃなく、ウマいものを栽培!
「うちの畑は2ヘクタールくらいです。面積が小さいので品種を絞って栽培すると収穫量は限界があります。そこでうちは多品種のさつまいもを栽培して、販売先の要望にあわせて出荷しています。どの品種が売れるか売れないかというよりも、自分で食べてみておいしいと思ったものを栽培しています。紅あずま、紅まさり、紅はるか、紫芋、パープルスイートロードなど、気がついたら17種類にまで増えました」と笑う。同じさつまいもでも品種によって栽培方法が異なるという。「芋は芋だから栽培方法はどれも同じだろうと思っていたのですが、違うということがわかってきました。品種にあわせて栽培するのは手間がかかりますが、うちは畑が小さいので隅々まで目が届きます。異常気象の影響を受けて生育の悪い品種もあれば、逆によく育つような品種もあり、さつまいも栽培は奥が深くて面白いですね」
出荷をいまかと待つさつまいもたち
発売当初は不人気だった、大人気の紅はるか!?
「2023年からはひめあずまという品種が販売されますが、売れ筋はメディアの影響が大きいと思います。今大人気の紅はるかは10年くらい前から栽培していましたが、蜜が出る品種なので『焼き芋の石が蜜で汚れて掃除が大変』と焼き芋屋さんには人気がありませんでした。しかし、今の焼き芋ブームでメディアに取り上げられ、今ではこの地域の主力品種となっています。最近はシルクスイート、すずほっくりなどの新しい品種も出てきているので、スーパー、焼き芋屋さんなど、販売先のニーズにあわせたものを提供するようにしています」
なんと、全国のさつまいも農家のトップ5に輝く
「実は“日本さつまいもサミット2022 さつまいも・オブ・ザ・イヤー”という全国大会があって、うちの畑で栽培した“ひめあやか”を出品したところ、受賞することができました。賞にはあまり興味はなかったのですが、焼き芋屋さんから連絡をいただくことも増え、今は10〜20軒の焼き芋屋さんに販売しています」と話す。ひめあやかはホクホク系とねっとり系の中間の食味で、渋谷さん自身も大好きな品種だという。「さつまいもは人によって好みがわかれますね。昔からある紅あずまはホクホク系で、紅はるかはねっとり系です。シルクスイートはしっとりした爽やかさがあります。メディアの影響によって常に新しいものが求められる時代なので、私たち農家は苗の植え付けから収穫まで短いサイクルだけでなく、世の中の大きな流れも意識していかなければ時代に取り残されてしまいますね」と話す。
俺が作ったこだわりの芋“源次郎ポテト”
「極端なことを言えば、さつまいもは私たちの生活になくても困らないんです。でも、食物繊維も多く身体に良いということも広まっています。だからこそ、こだわったさつまいもを作りたいと思うのです。ワインにはその土地の名前が付けられていますよね。ブルゴーニュワインなど。うちのさつまいもの出荷箱には“源次郎ポテト”と印刷されていますが、これは茨城県行方市小高源次郎という地番の下の名前“源次郎”から付けました。17種類あるので、品種ごとに箱を作ると大変なことになるので、うちの畑で採れたさつまいもはすべて“源次郎ポテト”。もちろん品種や等級、サイズは書いてありますよ」と渋谷さん。今後は原点回帰した農業に取り組みたいという。「全ての畑に同じ配合肥料を使うと、それで味が決まってしまいます。作業性や効率性は落ちますが、本来は特性や状態を見極めて畑ごとに肥料や配合を変えたほうがいいはずです。落ち葉や田んぼの藁など、昔から自然の中にあるものを発酵させた堆肥や牡蠣殻石灰などを使い、栽培方法のこだわりもお客さんに伝えるような商品づくりにチャレンジしてみたいですね」
源次郎ポテト渋谷農園
・住 所 | 茨城県行方市小高1500-1 |
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・電 話 | 0299-77-1390 |
渋谷 泰正(源次郎ポテト 渋谷農園 代表)
茨城県行方市出身。農家の長男として生まれ、祖母の「農家は儲かる」という言葉を信じ、高校卒業後に家業を継ぐ。当初は葉たばこ栽培が中心だったが、10年前からさつまいもに栽培に転向。2ヘクタールの小さな畑で17品種を栽培する研究熱心な個人事業主の農家。