さつまいも動画を60本以上投稿する、農業系YouTuber橋本さんに聞く、農業と情報発信。タネのハシモト 橋本さん
満月の日を見るとさつまいもは…
「月と農業って実は密接な関係があることをご存知ですか?」と話しはじめたのは、タネや種苗、肥料などを販売するタネのハシモトの橋本茂さん。「地球は自転していますが、磁場が形成されて、N極(プラス)とS極(マイナス)で成り立っています。そこに月の引力が働きます。満潮と干潮の潮位の差が大きくなる大潮は、月の引力の影響を受けたものです。つまり、潮の満ち引きと同じで植物にも流す力と引く力があり、そのタイミングを利用して植物に肥料を与えるのです。満月のときは葉や茎に、新月のときは根に肥料を与える。そうすることで、野菜の生育や味が変わるのです」と語る。月の光そのものの影響も受けるそうで、さつまいもの苗を植えるときも、光のある満月のときのほうがいい結果になったという。
タネも仕掛けもあるタネ屋さん
「“タネ屋”として、農家さんに野菜のタネや苗、肥料や農業資材を販売していますが、7年前から“循環型経営”というものをはじめました。これは苗などの販売にとどまらず、農家さんが収穫したさつまいもの販売までを一手に請負うという仕組みです。このような戦略的な仕掛けを提供しているタネ屋は全国でも珍しいと思います」と橋本さん。「値段の安い商品は値段自体が価値なので、安くすれば売れます。でも、それだと農家さんは大変ですよね。ですから付加価値をつけて販売する。その一つの方法がYouTubeの活用なのです」と話す。農家さんに求められた苗や肥料を販売するだけでなく、市場のニーズやさつまいものブランド戦略も踏まえた品種も提案し、行方のさつまいも農家さんを支援しているそう。
事務所にて語る橋本さん
タネ屋が農業ネタを配信して実らせる!?
「YouTubeで動画配信をはじめたのは3年ほど前ですね。この地域で開催したイベントのアンケートを取ったら、7割以上の人がネットやSNSでイベントを知って来場していたのです。情報源はネットなのだと実感しました。私自身、機械音痴なのですが、当時はYouTubeをやっているタネ屋は一軒もなかったので、ちょっとやってみようと思ったのです」と話す。動画であれば実物を見せながら紹介できるので相手にも伝わりやすく、週1回以上は配信しているそう。「実際に配信をはじめると、農業をやっている皆さん結構困っていたのです。『今こんなことで困っているので、改善策を教えてください』という反応が多かったです。 栽培に役立つ情報や、次のニーズを先読みした新しい品種の話などは再生回数が伸びますが、『僕ならもっとこうしますよ』というコメントをくださる方もいます。情報を発信することで、逆に新しい情報を知ることや新たな視点を発見することも多々あります」
さつまいもが数値で話しかけてくる!
YouTubeで農業に関する動画を配信する一方で、その裏付けやデータの分析にはかなり力を入れているそう。「人はデータがないと納得しないですね。1日ごとの葉の大きさの変化や縦横の比率、天気のデータなど色んな条件や要素をリンクさせて数値化します。その膨大なデータの蓄積によって、さつまいもはこういう時期にこんなことをすると成長します、と農家さんに伝えることができます。かなりの数の畑を見て回ってきたので、今は見ただけでどんな症状なのか感覚的にわかるようになりました」と橋本さん。「最近は農家さんだけではなく消費者の方も私のYouTube見ているので、さつまいもの保存方法や食べ頃といった情報も盛り込んでいます」
旨いさつまいもは、まず産地で選べ!
「なめらかな食感が特長のシルクスイートという品種は、うちで販売を開始してもう7年ほど経ちます。2020年には2000箱くらい全国に直送していますが、その度に『こんなにおいしいさつまいもは初めて食べました』という声をいただきます。7年経っても知らない人が多いということは、私たちの情報発信が十分ではないということですね」と話す。収穫時期になるとリピートのお客さんから『早く送ってください』と催促の連絡が来るというが、橋本さんは食べ頃を見計らってから出荷しているという。「おいしいさつまいもは見た目で判断しにくいのです。だからまず“行方産さつまいも”と産地を指定してほしいです。月のマークが描かれて“月見苑(つきみえん)”と書かれた箱のさつまいもは、うちのブランドなので間違いないです(笑)」と微笑む橋本さん。今宵も酒宴の誘いを断り、YouTube動画の編集に励むのだとか。
タネのハシモト株式会社
・住 所 | 茨城県行方市麻生3290-64 |
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・電 話 | 0299-72-0364 |
・営業時間 | 8:00〜18:00 |
・定 休 日 | 月曜日 |
橋本 茂(タネのハシモト株式会社 代表取締役)
茨城県日立市出身。洋服屋を営んでいた祖父が終戦後、自転車にタネを積んで行商をはじめ、その思いを受け継いだ父がこの場所でタネ屋を開いたのが「タネのハシモト」の起源。タネや肥料の販売、循環型経営、YouTube配信、農業指導など精力的に活動するアイデアマン。