2025.03.10(月)

焼き芋の「いい香り」の正体は? 熱波師がアロマの専門家に聞いてみた!

焼き芋の「いい香り」の正体は? 熱波師がアロマの専門家に聞いてみた!

こんにちは。「365日焼き芋を食べる熱波師」天谷窓大(あまや そうた)です。
焼き芋アンバサダーを務めながら、サウナで熱波師としても活動しています。

焼き芋の「いい香り」の正体は? 熱波師がアロマの専門家に聞いてみた!

熱波師とは、サウナのヒーターで熱せられた石に水をかける、発生した大量の蒸気(ロウリュ)をタオルやうちわなどをつかってお客様に送る仕事。サウナブームの盛り上がりを受け、サウナの熱さを楽しむための“司祭”的な仕事として注目されています。

焼き芋の「いい香り」の正体は? 熱波師がアロマの専門家に聞いてみた!

そんな熱波師の要素として欠かせないのが、アロマの存在。さまざまな香りのアロマオイルを水に溶かし、サウナストーンで揮発させることによって、心地よい空間を演出します。心地よいサウナ空間を作るために、このアロマのチョイスが重要な鍵を握っているのです。

焼き芋の「いい香り」の正体は? 熱波師がアロマの専門家に聞いてみた!

ここで私が注目したのが、嗅ぐだけでフワリといい気持ちになる、焼き芋の香り。

焼き芋の「いい香り」の正体は? 熱波師がアロマの専門家に聞いてみた!

普段熱波師として活動する施設でも、アロマ選びを得意とする熱波師仲間といっしょに「さつまいもの紅茶と焼き芋」を組み合わせた熱波を行い、お客様から好評を得ています。

焼き芋とサウナ、一見関係がないように見える2つの領域ですが、意外な共通点があるのでは──。そんな疑問がむくむくと頭をたもげてきました。

「焼き芋の香りに含まれるどんな成分が『気持ちいい』と感じさせるのか?」
「サウナでも、焼き芋の香りで『ととのう』ことができるのでは?」

この記事では、この2つの疑問と仮説を前後編に分けて検証。焼き芋をアロマの観点から科学して、その気持ちよさの正体を探ります!

サウナアロマの専門家に相談してみた!

今回の検証にあたり、全国各地のサウナで広く使われるアロマオイルを開発する企業、「SeaAroma(シーアロマ)」の戸澤佳子さんにご相談してみました。

焼き芋の「いい香り」の正体は? 熱波師がアロマの専門家に聞いてみた!

株式会社SeaAroma 戸澤佳子さん

SeaAromaさんは、2008年に創業した「香りの専門会社」。ホテルなどの施設を香りで空間演出する業務を中心としながら、サウナ用のアロマオイル開発を手掛けていて、サウナ愛好家の間ではおなじみの存在です。

戸澤さん「オリジナルの香りバリエーションは150種類あります。そのうち、サウナ用アロマとして50種類を販売しています」

すごい数……!もはや表現できない香りなどないんじゃないかという充実度です。ちなみに香りはどのようにして作り出しているのでしょうか?

 

焼き芋の「いい香り」の正体は? 熱波師がアロマの専門家に聞いてみた!

戸澤さん「海のイメージ、森林のイメージ……というように、まず香りのイメージを描いて、それに合うようにさまざまな精油をブレンドします。合成香料は一切使っていません」

天然の香り同士を組み合わせることで、イメージに合った香りを具現化しているというSeaAromaさん。非常に手間隙をかけられているのが想像できますが、その分、生まれる香りはとてもリアル。突き詰めていけば、焼き芋の香りを見事に表現する組み合わせが見つかりそうです……!

「焼き芋の香り」はどんな要素で構成されているのか?

どんな香りを組み合わせれば、焼き芋の甘く豊かな香りを再現できるのか。そのためにはまず、焼き芋にどんな香りの要素が含まれているのかを探っていきます。

焼き芋の「いい香り」の正体は? 熱波師がアロマの専門家に聞いてみた!

持ってきたのは、行方産の紅はるかで作った焼き芋。こちらを戸澤さんに食べてもらい、プロの鼻で感じた「香りの要素」を伺うことにしました。

戸澤さん「いただきます。……うん、甘くて美味しい! 香りもいいですね」

 

焼き芋の「いい香り」の正体は? 熱波師がアロマの専門家に聞いてみた!

焼き芋をじっくり味わいながら、膨大な数にわたる香りの資料ファイルを手繰っていく戸澤さん。

焼き芋の「いい香り」の正体は? 熱波師がアロマの専門家に聞いてみた!

戸澤さん「まず感じたのは栗の香りですね。香ばしくて甘い匂いは、フラノンという成分で醸し出されています。香ばしさという点でいうと、ほうじ茶の香り要素もありそう。緊張を緩和してくれる香りですね」

たしかに、焼き芋の風味を表現するときに「栗のような」という言葉をよく見かけます。実際に「栗」と名前のつく品種もありますね。

戸澤さん「あとは、美味しい香り、旨味を感じる香りを感じます。こちらはメチオナールという成分によるものですね。いちごや醤油などにも含まれています」

いちごや醤油の要素! これは意外! 焼き芋の香りというと甘さや香ばしさのイメージがありますが、「旨味の香り」も含まれていたとは。文字通り「おいしい匂い」だったわけですね。

戸澤さんのお話を伺いつつ、焼き芋の香りに関する研究資料も調べてみました。

2005年に川越いも友の会・焼き芋文化チームが刊行した「焼き芋小百科」という冊子に収録されている鹿児島大学名誉教授・永浜伴紀氏の論文「焼きいもの香り」によると、焼き芋の香りはじつに12種類もの化合物で構成されているとのこと。

焼き芋の「いい香り」の正体は? 熱波師がアロマの専門家に聞いてみた!

出典:焼き芋小百科 2005.9.13 川越いも友の会・焼き芋文化チーム編「科学Ⅱ 焼き芋の香り 永浜 伴紀」30頁

その中には、焼き菓子やカラメル、パンなどに含まれ、いわゆる「焼き立ての香ばしい匂い」を構成する「マルトール」という有機化合物や、あんずの甘酸っぱい香りを構成する「ベンズアルデヒド」、はちみつやバラなどの香りを構成する「フェニルアセトアルデヒド」などが含まれていました。焼き芋の香りって、実はとても複雑な組み合わせで出来ていたんですね!

「焼き芋の香りを再現したアロマオイル」を作るとしたら……?

だんだんと見えてきた、焼き芋の香りの正体。
これらをうまく再現できれば、「焼き芋の香りのアロマオイル」を作ることもできてしまう?!

戸澤さん、技術的にこういうことは可能なのでしょうか?

焼き芋の「いい香り」の正体は? 熱波師がアロマの専門家に聞いてみた!

戸澤さん「焼き芋そのものから精油を抽出することは難しいですが、近い香りを再現することは可能だと思います。たとえば、ほうじ茶の蒸留水をベースにして、バニラやローズなどの甘い香り成分を組み合わせると、香ばしさと甘さで焼き芋っぽい香りを生み出せそうです」

おおお〜!! すごい!!!がぜん現実味を帯びてきました。

戸澤さん「今回の相談内容をもとに、試作品を作ってみますね!」

焼き芋の「いい香り」の正体は? 熱波師がアロマの専門家に聞いてみた!

なんとSeaAromaさんのご厚意で、「焼き芋アロマ」を試作していただけることになりました!

はたして出来上がったアロマはどんな香りがするのか。焼き芋の香りで「ととのう」ことができるのか。気になる続きは後編で!

<協力:株式会社SeaAroma>
https://seaaroma.co.jp/